三密回避が叫ばれたコロナ禍で注目された「ひとり時間」。しばらく人と離れて、ひとりで過ごす中で改めてその価値に気づいた人もいるのではないでしょうか。
一方で、「これを機に、ひとりで色んなことにチャレンジしてみよう!」と意気込んだものの、なかなか勇気が出ず、あるいはひとりの過ごし方がわからずに躊躇してしまっている人も多いのでは。
今回はおひとりプロデューサーとして、ひとり時間の過ごし方を提案するまろさんにインタビュー。まろさんが感じたひとり時間を作ることの効能や、ひとりだからこその楽しみ方についてお話を伺いました。
プロフィール:まろ
ひとり時間の過ごし方を提案する、おひとりプロデューサー。自身が運営するメディア「おひとりさま。」(@ohitorigram)や各メディアを通じ、ひとり時間について発信している。特に「ひとりホテルステイ」のコンテンツが人気を集め、漫画『おひとりさまホテル』(新潮社)の原案を担当。今年6月には初の著書『おひとりホテルガイド』(朝日新聞出版)を出版。さらに、企業と連携してひとり客向けのプランを企画・コンサルティングを行うほか、ひとり時間で繋がるコミュニティ「おひとりくらぶ。」も運営している。
自分の得意とニーズを生かした「おひとりプロデューサー」の仕事
――まずは、まろさんの略歴から伺ってもよろしいでしょうか?
新卒で入社したテレビ朝日で8年ほど勤め、2023年9月に独立しました。現在は、ひとり時間の過ごし方を提案するメディア「おひとりさま。」の運営を軸に、おひとりプロデューサーとして活動しています。そのほか、執筆やインタビューなどメディア出演を通じた発信、ひとり時間の環境を整えるという意味で宿泊や旅行・飲食関係の事業者様等とおひとりさま専用のプランやサービスを考える仕事もしています。
――テレビ朝日に在籍中はオウンドメディアの運営や番組プロモーションに従事されていたそうですね。もともと、メディアの運営には興味があったのでしょうか。
まろ:そうですね。大学時代にはスポーツ新聞会に所属し、体育会で活躍する選手を取材したり、一時期は「LINE NEWS」でアルバイトとして働いていて、ニュースをわかりやすく伝える取り組みに携わったりもしていました。そう考えると、自分が世の中に伝えたいと思うことを発信することには昔から興味があったかもしれません。
――まろさんは会社員時代の2017年にメディアを開設され、副業として現在のお仕事をスタートされていますが、そもそものきっかけは何だったのでしょうか。
まろ:テレビ朝日に入社して配属されたのが、「ネットワーク部」という系列のローカル局の窓口となる部署でした。テレビ局というと激務のイメージがあるかもしれませんが、部署の仕事柄もあって、当時は割と時間にゆとりがあり、ルーティーンの仕事も多かったので、もう少しクリエイティブな力もつけたいと思って。それに、先ほどの「誰かのためになることを発信したい」という気持ちもあったので、初期投資もかからず、ノーリスクで始められるSNSで何か始めようと思いました。でも、自分のライフスタイルを発信する、いわゆるインフルエンサーとして活動したいわけではなく、メディアを作りたくて。そこで何かテーマ性を設けたいと考えたときに、もともとひとり時間を過ごすのが得意だったこと、当時はまだひとり時間に特化したメディアが少なく、自分自身がそういうものを欲していたことから、ひとり時間をテーマにしたメディアを立ち上げました。
ひとりの時間と誰かと過ごす時間のバランスを大事に
――少しパーソナルな部分についても伺いたいのですが、この活動を始める以前からまろさんはひとり時間を大切にされていたのでしょうか。
ひとり時間の良さに気づいたきっかけは、女子校に在籍していた学生時代でした。みなさんが女子校と聞いてイメージするような女の子、女の子した雰囲気ではなくて、意外とサバサバしている子も多かったんですが、とはいえ集団で行動する文化があって、その反動でひとりになりたいって感じるようになったんですよね。そんな中、1週間という長めの修学旅行に行って、ある夜ふとひとりでベランダに出たんです。そのとき感じた開放感が忘れられなくて。まあ、それも「何してんのー?」って友達が来て一瞬で終わったんですが(笑)。でも、あのときの感覚が今でもずっと残っていて、もちろん誰かといる時間も必要だけど、ひとりで過ごす時間もすごく大事なんだなと気づくことができました。
――私も会社員時代にランチタイムだけはひとりで過ごしたいと思っていたので、すごくわかります。孤独になりたいわけじゃないんだけど、ひとりの時間もないとダメなんですよね。
そうですね。私は別にずっとひとりになりたいわけでも、孤独な社会をつくりたいわけでもないので、そのバランスは自分の中でも大事にしていますし、ひとり時間の過ごし方について発信する上でも伝えていきたいなと常々思っています。私の場合、この仕事をしていると、どうしてもずっとひとりがいいんじゃないかって思われやすいんですが、実はおしゃべりで誰かと過ごす時間も大好きだし、人から刺激を受けたいタイプなんです。でも、今は周りの話を聞いても、ネットやニュースを見ていても、ひとりになり過ぎている人が日本ですごく増えているなと感じていて。昔は、何か困ったことがあったら人に聞かないと解決できなかったけど、今はスマホ片手になんでもできてしまうし、日本は、たとえば外食チェーンなどでも“おひとりさま”で過ごしやすい環境が整っているので、究極誰とも関わらずに生きていけてしまう。しかも、ひとりだと誰にも気を使わず、どこまでもわがままになれるから、慣れると楽なんですよね。だから、それに慣れてしまうと、人との関わりが億劫になって、余計にひとりを選んでしまうのかなって…。だけど、やっぱり他人と関わることでしか、得られない視点や刺激があるし、暖かさも感じられるので、一時的なひとり時間を持つことはいいけれど、私はそうやってずっと殻に閉じこもってしまうのは勿体無いと思ってしまいます。
――他人と関わって得たものによって、ひとりの時間をより深めることもできそうですね。
本当にそうだと思います。私も両方の時間を過ごしてみて、それぞれに良さがあることを知ったんです。例えば、誰かといる時は、議論することで何か刺激を受けたり、自分が行かないような場所に行って新しい世界を見れたりするし、逆にひとりのときは、周りの声をシャットダウンして自分と向き合えたり、好きなことを極められたりする。その使い分けは自分の中でも常に意識していて、それぞれの良さを生かした時間を過ごしたいなと思っています。
――そのバランスを取る上で、例えば自分がひとりになりたいのに、誰かから「なんでひとりがいいの?」「一緒にランチ食べようよ」と言われることもあると思うのですが、まろさんはどのように対処されていますか?
自分の思いやスタンスを伝えなくても、相手が察して理解してくれると思わないことが大事だと思います。やっぱり人間って白か黒で判断してしまうことが多くて、私みたいな仕事をしていると、先ほども言ったように、みんなといるより、ひとりの方が好きだと勘違いされやすい。それで誘いづらいと思ってしまう友人もいるみたいで。でも私はそうやって誘われなくなるのは寂しいので、ひとりの時間も必要だけど、みんなとの時間も必要だし、誘われるのは嬉しいってことをちゃんと伝えるようにしています。もちろん、全員が私の価値観を理解してくれるわけではなく、「なんで自ら孤独を選ぶんだ」と言われたこともありますが、それはそれで面白いなって。変な話、私は「全ての人がひとりの時間を作るべきだ」とは思っていなくて、本当に必要な人だけが過ごせばいいと思っているんです。なかには必要性を感じていなかったけど、試してみたら意外とひとり時間の魅力が分かったという人も、もちろんいると思います。だけど、本当にひとりの時間が全く必要ないという人もいる。そういう自分とは違う価値観の人にこそ、察してもらおうとせず、一旦はきちんと自分の思いを伝えるべきなんじゃないかなと思います。
自分以外の人も大切にするための「ひとり時間」
――先ほど、日本はひとりで過ごす環境が整っているというお話がありましたが、海外にはあまり敢えてひとりの時間を作る文化はないのでしょうか。
もちろん国によって異なるんですが、特にコロナ前は、海外の方と話すと、単独行動を取る=社会から外れている人、あるいは家族や友達などのコミュニティがない人かなと思うという方が結構いて。ひとりで何かしている人を見たら、心配して声をかけることもあるとも言ってました。やっぱり食事一つとっても、誰かと一緒にワイワイ食卓を囲むというのが海外ではスタンダードな気がします。ただコロナ以降、流れが変わってきていて、どの国でもひとりにならざるを得ない状況が続いたことで「意外とひとりもいいよね」って思うようになった人が多いみたいなんです。最近は「Solo date(ソロデート)」と言って、欧米を中心にひとりの時間を楽しむのが流行っているそうですよ。
――「ソロデート」という単語、いいですね。自分とデートする、ひいては「自分を慈しむ」という意味も込められているのかなと思いました。
きっとそういう意味も含まれていると思います。発想としてわかりやすくて、面白いですよね。日本の「おひとりさま」という言葉は、孤独や独身であることを自虐するようなワードとして誕生していて、特に最初はどちらかというとネガティブなイメージを持たれていたと思うんです。だけど、今海外で言われ始めた「おひとりさま」は「ソロデート」とか、「ME TIME (ミータイム)」にしても、ある種のリトリートとしてひとり時間を捉えている。それはみんなと過ごす時間も満たされているからこそ。日本はそれが失われすぎているから、寂しい言葉も残っている気がするんですが、私はそうじゃなくて、もっと豊かな時間としてひとり時間を提案していきたいなと思っています。
――家族や恋人がいたとしても、人によっては必要な時間というところがポイントですよね。
そうなんですよ。ひとりの時間は決して独身の人だけのものではないと思っていて、むしろ家事や育児に追われて、自分のための時間がなくて追い詰められている人にこそ必要だと思うんですよね。ただ残念ながら、パートナーや子供を置いて、ひとりの時間を作ろうとすると周りから冷たいと思われることが日本ではまだまだ多い印象です。でも、そうじゃないってことを伝えていきたいし、パートナーや子供がいる人でもひとりの時間を作れるような環境も少しずつ整えていきたいなと思っています。
――ひとり時間って、いつも一緒にいる人を大切にするための時間でもありますよね。
まさにそう!私も子供が2人いる親友がいて、その子はもともと誰かと過ごす時間が好きなんですけど、子育てで疲労やストレスが溜まって初めてひとりになりたいって思ったみたいなんです。それで夫に子供たちの面倒を任せて1日だけひとりでホテルに泊まってみたら、家族と離れたことで子供の泣き声も喧嘩も含めて愛おしいと思えるようになったと。そういう当たり前に思っていたものの大切さに気づくという意味でも、ひとりになって孤独を感じることが非常に大事だと思っているんですよね。私もたまにひとりで登山に行くんですが、すごく不安になるんです。この不安ってなんだろうって考えたときに、それは普段周りに助けてくれる人たちがいて、その人たちに頼れない環境だから不安になるんだなって思ったんです。それで自分が人に恵まれていることに改めて気づきました。だから、誰かと離れてひとりになることは、決してその人をないがしろにしているわけじゃないんです。むしろ、周りの人をどれだけ愛しているか、再確認できる時間だと思っています。