三密回避が叫ばれたコロナ禍で注目された「ひとり時間」。しばらく人と離れて、ひとりで過ごす中で改めてその価値に気づいた人もいるのではないでしょうか。
一方で、「これを機に、ひとりで色んなことにチャレンジしてみよう!」と意気込んだものの、なかなか勇気が出ず、あるいはひとりの過ごし方がわからずに躊躇してしまっている人も多いのでは。
今回はおひとりさまプロデューサーとして、ひとり時間の過ごし方を提案するまろさんにインタビュー。まろさんが感じたひとり時間を作ることの効能や、ひとりだからこその楽しみ方についてお話を伺いました。
プロフィール:まろ
ひとり時間の過ごし方を提案する、おひとりプロデューサー。自身が運営するメディア「おひとりさま。」(@ohitorigram)や各メディアを通じ、ひとり時間について発信している。特に「ひとりホテルステイ」のコンテンツが人気を集め、漫画『おひとりさまホテル』(新潮社)の原案を担当。今年6月には初の著書『おひとりホテルガイド』(朝日新聞出版)を出版。さらに、企業と連携してひとり客向けのプランを企画・コンサルティングを行うほか、ひとり時間で繋がるコミュニティ「おひとりくらぶ。」も運営している。
ひとり時間の過ごし方は十人十色でいい
――まろさんは現在ホテル暮らしが生活のベースとなっているそうですが、いつごろから始められたのでしょうか?
会社員時代に、最初は休みの日に都内のホテルに泊まるところからスタートして、1年ほど経った頃から平日にも泊まるようになりました。基本的には月曜日から金曜日まで同じホテルに泊まるのを繰り返して、転々と移動していた感じですね。当時は都内中心だったんですが、独立してからはより範囲が広がり、今は地方や海外のホテルに泊まることもあります。
――同じようにひとりでホテルに泊まってみたはいいものの、結局何をしていいかわからずにボーッと過ごして終わってしまうみたいなこともあるかと思いますが、まろさんは具体的にどのようなことをされているのでしょうか。
私はせっかく泊まるなら、その空間を存分に堪能したいタイプなんです。とはいっても、何か特別なことをしているわけではなく、窓際のソファに座って外の景色をボーッと眺めてみたり、部屋のインテリアを隅々までチェックしてみたりしています。やっぱり誰にも邪魔されず、ひとりでじっくりと向き合える分、細かいディテールまで気づくことができるんですよね。あとは深夜であえて日中は人で賑わっている共用部分に足を運んで、その空間を独り占めするみたいなこともやっています。でも、本当に人によって過ごし方は違って、部屋でエクササイズするのが好きな方や、窓から街を眺めて良い土地を見つけるなんて方もいますし(笑)、私は十人十色でいいと思うんです。それこそ、ひとりホテルステイの醍醐味であって、何か特別なことをしなきゃ!って意気込まずとも、その人なりの過ごし方は、何回か泊まっているうちに自ずと見つかるんじゃないかなと思っています。
――あとはスマホでいつでも人と繋がっているがゆえに、ひとりなのにひとりじゃない気分を味わえてしまうことも多い現代ですが、まろさんはスマホとどういう風に向き合っていますか?
私はスマホがないと生きていけない人間なので、デジタルデトックスは正直できていなくて(笑)。しかも、起きた出来事や気づいたことをすぐに誰かに喋りたいタイプなので、割と常に誰かと連絡を取り合っています。でも、もしデジタルデトックスしたいのであれば、温泉がおすすめ。温泉はスマホの持ち込みができないので、一時的ではありますが、湯船に浸かっている間は全く誰とも繋がらずに自分と向き合えると思います。あと私は最近、ひとりで山へハイキングに行くこともあるのですが、電波がないところもありますし、歩くのに一生懸命で強制的にスマホから手が離れる時間が増えるので、デジタルデトックスには向いているかもしれません。
まろさんが感じたひとり時間の意外な効能とは?
――まろさんがひとりの時間を積極的に取るようになって感じた良い変化を教えてください。
意外な効能でいうと、人と旅しやすくなったというのがあります。人と旅をしている時、すごく仲の良い人であってもギクシャクしてしまう瞬間ってありませんか? 私も以前はそういうことが何度かあったんですよね。それってきっと、「私はここに行きたいのに、友達が疲れているから行けない」「そこでやりたいことがあったのに、友達は違うことをしたくて時間的に諦めなきゃいけなかった」というように、自分の欲求が満たされなくてもどかしさを感じてしまうからだと思うんです。だけど、ひとり旅をするようになってからは、「そんなに行きたい場所やしたいことがあるなら、今度またひとりで行ったらいいじゃん」って思えるようになって、誰かと旅行するときにほとんどストレスを感じなくなりました。むしろ、そういうときこそ、相手のスタイルに合わせて普段の自分とは違う旅がしたいと思えるようになったんです。ひとり旅と、誰かとの旅を使い分ける感じですね。
――たしかに「今度ひとりで来たときはここに行こう」って思えたら、また一つ楽しみができますよね。
そうなんですよ。一度きりだと思うから、やりたいことができないことに対してストレスを感じるのかなと。一度じゃ楽しみきれないなら、何度だって訪れたらいいと思うんです。そうやって切り替えたら、誰かと旅をしているときも、この人と一緒に過ごせる時間を大切にしようと思えるようになりました。逆にひとり旅は自分のやりたいことだけをやれるのが醍醐味。一人旅だけでなく、それぞれの旅に価値を感じられるようになったのは、自分でも思ってもみなかった良い変化です。
――前回からお話を聞いていて、ひとりで過ごす時間を作ると、何にしてもすごく心の余裕が生まれるんだなと思いました。
私も、それは大きい効能だと思いますね。やっぱり自分で自分を満足させることができるようになると、心に余裕が生まれて、他人を満足させる方にもエネルギーを向けられるようになるんだと思うんです。だから、ひとりの時間を作ることは人との関わりにおいてもメリットがあると私は信じています。
できるだけ“最初の一歩”のハードルを下げることが大事
――まろさんは現在、「おひとりくらぶ。」という会員制コミュニティを運営されていますが、具体的にはどのような活動をされているのでしょうか?
それこそ、私が「ひとり時間もいいけど、みんなと過ごす時間もいいよね」と思っていることを実践しているようなコミュニティで、ひとり時間が好きな人同士がリアルに集まって交流したり、オンラインで情報交換をしたりしています。現在は70人ほどの方が参加してくださっているんですが、部活のように興味のあるカテゴリーに分かれて交流することも。中でも、意外な盛り上がりをみせているのが「ひとり島旅部」。その名の通り、ひとりで島旅をするのが好きな方が集まっているんですが、やっぱり秘境であればあるほど情報が乏しくて、交通の面や安全性などわからないところが多いので、「こういうところが不便だったよ」「ここの飲食店良かったよ」みたいに実際に旅した人のリアルな情報がすごくありがたいんですよね。特に、ひとりだと、自分で解決していかないといけないので。そういう風に情報交換の場として活用してくださっている会員さんたちを見ていると、運営している私も色んなニーズや過ごし方を知れるのでとても楽しいです。
――そのコミュニティの会員さんやSNSのフォロワーさんから、質問や相談を受けることもあるかと思いますが、どういうものが多かったりしますか?
コミュニティにいる方は、ひとり時間を積極的に楽しんでいる方が多いですが、一般的には「ひとりで色んなことに挑戦してみたいけど、周りからどう思われるかが気になって、一歩を踏み出す勇気がありません」というご相談がすごく多いですね。やっぱり何をするにしてもひとりだとハードルが高いですし、なおかつ年配の方だと、ずっとひとりで過ごすことをやっていなかったがゆえに最初の一歩がますます重くなってしまうのかなと思います。
――そういう方にはどういう風にお答えされているのでしょうか。
まずは、自分の興味関心を満たす一人旅を提案しています。よく「ひとり旅におすすめのスポットはありますか?」という質問を受けるんですが、一般的に京都はひとり旅向きだと言われますけど、全員が全員、興味があるかといえば、実はそうではないと思うんですよね。だから、まずは自分の興味関心から探すのが一番いいと思っていて。例えば、私の場合、民芸が好きなので、民芸が盛んな地域によくひとりで足を運んでいます。好きなことを好きなだけ深掘りできるのは、ひとり旅の良さだと思っています。
あとは先ほどのお話のように、今まで誰かと行ったことがあって、楽しかった記憶のある場所に今度はひとりで行ってみるというのもありだと思います。やっぱり行ったことない場所にひとり行くのって、土地勘もなく、本当に楽しめるかどうかわからなくて不安じゃないですか。でも一度行ったことがあれば、大体何があるか把握できているし、スケジュールも組みやすい気がしてて。誰かと旅を行っているときに、一日“ひとり旅”の日を設けてみるのもおすすめです。そういう風にできるだけハードルを下げた方が、一歩を踏み出しやすいと思うので、お悩みの方はぜひ試してみてください!