盛り上がりすぎたコミュニティは一旦盛り下げるくらいがちょうどいい/ファンベースカンパニー佐藤尚之さん(前編)

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ここ数年、ビジネスでもプライベートでも聞くことが増えた「コミュニティ」という言葉。

私もコミュニティにいくつか入ってみたことがありますが、うまく活用できていたのかは、少し気がかりです。

いいコミュニティってなんでしょうか?

ファンを基盤にした経営支援やマーケティング支援をおこなっている(株)ファンベースカンパニーの佐藤尚之さんに話を聞きました。

プロフィール:佐藤 尚之(さとう なおゆき)
1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブディレクターを経て、コミュニケーションデザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。著書に「明日のプランニング」(講談社現代新書)、「ファンベース」(ちくま新書)など。

多くの人がイメージするコミュニティは「プロジェクト」

ーーここ数年コミュニティが注目されています。佐藤さんが考えるコミュニティとはどんなものでしょうか?

いろんな定義がありますが、ボクは、コミュニティは長期的に続く人々のつながりだと考えています。

コミュニティの参加者を利用してビジネスにしようと考えている方がイメージするコミュニティは、「プロジェクト」だと思うんです。つまり、予算があって、目的があって、ゴールがある。期限があるものもある。

でも僕は、コミュニティってこれまでの変遷を考えるとそんなものではないと思っているんです。

ーーどういうことでしょうか?

例えば、一番典型的なコミュニティとして「村」が上げられますよね。みんなで暮らしを助け合い、協力して生きていく。子どもが生まれたらみんなで寄ってたかって一緒に育て、夏は祭りで盛り上がることもある。そんなふうに、確たる目的もゴールもなく、村のメンバー同士が、そこを選んで住んだという共通点を大切にずっと長くつながり続けていく。

 そしてそのつながりが面倒くさいと思う人やうまく馴染めない人が、村を捨てて都会に出たりしたわけです。

 その都会では、昭和的な会社が「村的コミュニティ」として機能していました。昭和や平成の頭くらいまでですかね。終身雇用だから一生つきあうし、ちょっと出来の悪い若者が入社しても先輩社員みんなで寄ってたかって育てていく。このつながりが裏目にでるとパワハラやブラック企業と言われてしまうのですが、基本的には会社がある種のコミュニティとして機能してきたと思います。少なくとも社員が孤立しないように機能していた。

 ただ、平成の途中ぐらいから、雇用が流動化して会社が村的・家族的コミュニティではなくなってきました。個人がコミュニティを失い、容易に孤立しやすくなったと思うんです。転職などで仕事の関係が切れるといきなりコミュニティを失う。かといって都会に地域的コミュニティはあまりない。会社以前に培われてきた人間関係も都会まで持ってきていない。つまり容易に孤立する。

 このように、現代、特に都会においてはコミュニティを失って孤立しがちなので、都会を中心にコミュニティがより重要視されてきたという背景があると思います。

 そして、最初の村社会を見てもわかるように、村はずっと続いていくものですよね。村にゴールはありません。人々はずっとつながっていきますし、合わない人がいれば出ていく。

 つまり、コミュニティはまずは「続くこと」「つながり続けること」が前提で、企業が営利目的で熱量の高いクチコミを発生させたいとか、LTVを上げたいとかという考えは二の次にくるべきものだと僕は思います。そういうものを得たいのであれば、もっと短い期間で行えるイベントやプロジェクトでも十分可能だし、予算も少なくて済みます。

 ただ、それはとても短期的。コミュニティを持つことは「そのブランドを愛する人と長期的につながり続ける」という大きなメリットがあります。長いつながりを持てるように運営すれば、クチコミ量もLTVもずっと上がり続けて行きますし、何十年にもわたり企業のファンのベースとして、売上や価値を支えてくれる基盤になると思います。 

コミュニティに入るときは、長く居場所としていられるかを考える

 ーー参加者としてコミュニティに入ることのメリットはどんなものがありますか?

 さきほどご説明したように、これからの社会においては孤立や孤独が大きな問題になると思うんです。

 『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』という本では、ハーバード大学がおこなった84年に渡る「幸せ研究」の解説がされています。結論はシンプルで、「健康かつ幸福な人生を送る鍵は、よい人間関係(つながり)に尽きる」ということです。幸福な人生とは、高い地位でもたくさんのお金でもビジネス的成功でもなんでもなくて「良い人間関係(つながり)」に尽きる、と、科学的研究ではっきり示されているんですね。

 人間が本能的に幸福を求めるとすると、つまりコミュニティに参加したいということは人間の本能的な欲求なのだろうと思います。

 人間関係が切れやすい現代の環境においては、特に切実に「つながり」が重要だということかと思います。

 ーー現在さまざまなコミュニティがありますが、参加する際に選ぶヒントはありますか?

 ご説明してきたように、コミュニティって基本的に長い期間いる場所なんですよ。それは、ちょっと入ってちょっと盛り上がってまぁもういいか、っていうものじゃないんです。それならイベントでいい。

 だから、コミュニティに入るのであれば、長く居場所にできそうか、そして良い人間関係が築けそうか、を目安にするのがいいと思います。それらが幸福に直結することは先ほど紹介したハーバード大学の研究からもわかっているわけですから。

 長く居場所としていられるところ。例えば自分がすごく好きなアーティストやブランドなどでつながると長く楽しくいられますよね。そういうものを探されるのがいいと思います。

盛り上がりすぎる場合は、一旦盛り下げるくらいがちょうどいい

 ーーそれでは、いいコミュニティとはどんな特徴がありますか?

 コミュニティを運営している方の多くが、コミュニティを「活性化」したいと話されたりしますが、僕は活性化についてはかなり慎重に考えています。活性化はよいことばかりではないぞ、と。

 焚き火をイメージしてください。焚き火は静かにずっと燃えていて、人を集めます。そこに話しが始まり、静かで豊かな時間が流れます。ボクはそういう「焚き火的なコミュニティこそが長続きする」と思っているんです。

 でも、多くの運営者は「キャンプファイヤーをすべきだ」と思っちゃうんですね。みんなで集まって盛り上がろう!踊ろう!みたいな感じで。なんか盛り上がらないと不安になっちゃうんだと思います。それはよくわかるんですが、でもそれって長くは続きませんよね。運営側も参加者側も1日か2日で疲れちゃうし飽きちゃいます。

 だから、焚き火的にゆっくりのんびり長く続くものを考えた方がいいと思います。静かな焚き火をずっと続ける。キャンプファイアー的に盛り上がってしまったら、ちゃんと盛り下げて焚き火に戻すことが大切です。そうしないと続かない。

 例えば村の場合、夏祭りをずっとやっていたら疲れちゃうし、喧嘩とかのトラブルがはじまっちゃうかもしれない。そういう祭りは短いイベントとしては良くても、普段からやるもんではないですよね。普段の日常は言い方はちょっと変ですが「盛り上がらない」ほうが長く続きます。

 ーー焚き火に戻すのはどのようにするのでしょうか?

 運営側が盛り上げようとしなくてもメンバーの中で盛り上げようとする人がいるんですよね。それは自然発生的なものですしとてもいいことでもあります。しかし、それは「そこに入れない人」を生んだりします。盛り上がりについていけない人って日本人は特に多いんですよ。

 意図せずそうやって盛り上がったら、僕だったら違う焚き火を別の場所に作ってちょっと火を分散させますかね。あさっての方向に火種があると、熱量が分散していい感じの焚き火に戻る場合も多いです。

 たとえばフジロックでもステージがいくつもありますよね。でも1個のステージだけだったら盛り上がりすぎちゃうと思うんです。そんな感じで考えています。

 同調圧力が強いと参加できない人が出てくる

 ーー盛り上げすぎないこと以外に、佐藤さんが意識していることはありますか?

 僕は同調圧力を避けることにもとても気をつけています。

 「みんなで踊ろうぜ」っていう同調圧力が強くなると、「踊れない」「踊りたいわけでもない」という人たちがそこから弾かれちゃうわけです。そうするとその人たちは孤立や孤独を感じて離れていきます。僕自身、パーティーってあまり好きじゃないので、盛り上がろうぜ!っていう雰囲気だと弾かれちゃうからよくわかるんです。

 コミュニティがそういう雰囲気になってしまうと、なんか居場所じゃなくなってくるじゃないですか。

 だから、僕がとても気をつけているのは同調圧力を避けるということと、長く続けるために盛り上げすぎないこと。もちろんキャンプファイヤーをすることもありますが、そのあとは焚き火にちゃんと戻るのが大事。

 でも多くのコミュニティは、キャンプファイヤーのあと焚き火に戻れないんです。そうすると少しずつコミュニティが荒れていきます。

「いやいや、ファンたちから熱いクチコミが欲しいんです」とか、「熱量をあげたいんです」とかの目的であればイベントやプロジェクトでいいんですよ。長く続けるにしても、たとえば1年限定のプロジェクトにしてしまえばいいんです。

 コミュニティはもっと長い居場所になるつながりなので、本質的に違いますよね。みなさんがいうコミュニティはほぼプロジェクトかイベントです。だから、ずっと盛り上げようとしてコミュニティマネージャーが疲れちゃうんです。