ここ数年、ビジネスでもプライベートでも聞くことが増えた「コミュニティ」という言葉。
私もコミュニティにいくつか入ってみたことがありますが、うまく活用できていたのかは、少し気がかりです
いいコミュニティってなんでしょうか?
ファンを基盤にした経営支援やマーケティング支援をおこなっている(株)ファンベースカンパニーの佐藤尚之さんに話を聞きました。
プロフィール:佐藤 尚之(さとう なおゆき)
1985年(株)電通入社。コピーライター、CMプランナー、ウェブディレクターを経て、コミュニケーションデザイナーとしてキャンペーン全体を構築する仕事に従事。著書に「明日のコミュニケーション」(アスキー新書)、「ファンベース」(ちくま新書)など。
参加率が高い人が、過疎化させている場合もある
ーーコミュニティ運営で指標にされている数値はありますか?
コミュニティを楽しんでいる人の心を数値で測るのは難しいですね。村の例で考えればわかります。村としては満足していなくても、居場所としては満足していたりする。また、村にはいろんな性格やタイプの人が集っているわけで、一概に満足度とか測っても意味ないと思います。そういうこともあって、ボクはあまり数値は見ません。まぁでもなんとなく意識していることは2つあります。
ひとつは数人の「モデル」となる人をピックアップして、その人がどういう参加の仕方をしているのかを観察します。ピックアップする人はすごく引っ張るタイプというよりかは、ハブ的な動きをする人ですね。そういう人の動き方や参加の仕方をそっと見ています。
ふたつめは、おおよそ2割がちゃんとアクティブになっているかを確認しています。2割が8割を支えるパレートの法則はコミュニティでも完全に当てはまるといままでの経験から考えています。2割がちゃんとアクティブなコミュニティはまぁ大丈夫です。
ーー過疎化しているコミュニティにはどのように働きかけますか?
過疎化とは、書き込みが少なかったり、参加率が低かったりという意味でしょうか。であれば、そういう状況でどんなことをやればみなさんが参加したくなるのかということを試行錯誤しながら、さまざまな施策をちょこちょこやると思います。重要なのはその試行錯誤の過程もオープンにして見せることですね。そうすると協力してくれる方が必ず出てきます。それが改善の一歩目です。
ちなみに過疎化には理由がいくつかありますが、ひとつが前出の同調圧力なんですよ。
例えば誰かが参加率が高くて、みんなを誘って「こういうことやりましょう」「みなさん参加してください」などと仕切っている人が言うと、参加できなくなる人がでてくる。そして、その仕切っている人自体も浮いてくる。周りの人は自分とはタイプも空気も違うと思って参加しにくくなってくる。結果的に過疎化する。そんなこともあるわけです。
公園のママ友の関係にもヒントが見られます。公園を仕切っているママがいると、その公園に行きづらくなり、結果的に公園が過疎化します。
だから、参加率が高い人が過疎化させている場合もあるということです。
これが一番むずかしいんですよね。だって参加率高い方が悪いわけではないし、みんなと一緒に楽しくやろうとしている善の人だったりするわけです。なので、僕の場合はその仕切っている人とゆっくり何度も話をします。自ら盛り上げようとしてくれて大変ありがたいことではあるんですが、少しペースを緩めてもらう方向にお願いしたりします。
マネタイズを考える前に、参加者に対する愛を持つこと
ーコミュニティがビジネスとして成功している事例はありますか?
そもそも、ビジネスとしての成功ってなんでしょうか?プラットフォームとして儲かること?有料コミュニティで儲けが出ること? クチコミとかセールスが多く起こること?
地方活性化にしても商業ビルの活性化にしても、そんなに簡単にはうまくいきません。あまり安易に考えているようだったら、一度50人ほどの人からお金を集めてみんなが満足することをやってみればいいと思うんです。多くの方はなかなかできないですよね?
今までの時代はマスメディアも含めて何かお金をかけてバーンと打ち出すと、それなりに成果が得られていました。しかし、コミュニティは感情を持った人たちの集まりです。それを運営することはすごく手がかかって非効率的なんです。そのコミュニティをマネタイズするには、なにか効率的な方法があるんだろうとか思うのかもしれませんが、マネタイズすることについても非効率になるわけです。そこにシンプルに「効率」を持ち込んでも上手くいきません。
仮に成功している事例があるとして、同じ方法をとったらうまくいくんでしょうか?そんなことはないですよね。たとえば野球で言うと、巨人コミュニティでうまく行っているやり方を阪神コミュニティでやっても絶対うまく行きません。それぞれのコミュニティがそれぞれに違うんです。だからそういうテクニックを考える前に、まずは参加者に対する愛を持って、よく参加者を見ることが重要だと思います。
この人たちと一緒に長く生きていくというぐらいの気持ちが大切です。仕事の片手間で運営するくらいだったらかなり難しいかと思います。
400人近い会員たちが入る際に、全員と30分ずつ話をした
ーーGood Eldersという50歳以上向けのコミュニティを始められました。Good Eldersも長く続けることを意識されているのでしょうか?
もちろんです。ボクの寿命の問題もありますが、最低でも30年は続けたいと思っています。それは事前に入会者にも伝えています。今400人近く会員がいますが僕は入る際に全員と30分ずつ個々にリモートで話しているんです。400人だと200時間は入会時に時間を使っていることになりますね。とても非効率です。でもとても重要な過程です。
この「コミュニティの入り口」をきちんと設計することは、マジですごく大事だと思っています。心理的安全性が上がり、途中で問題が起きにくくなります。
ーーGood Eldersにはどのような方がいますか?
50代以上の方々です。今は僕のFacebook以外の告知はしていないので、多少僕と方向性が近い方々が集まっているかもしれません。いろんな方がコミュニティを立ち上げている中でここを選んでくださっている、という意味において、似た者同士かな、と思うこともあります。
50代以上ってリタイア前後なので、孤立しかけている人や親しい人がいなくなってしまって悩んでいる人も会員の中には多いんですね。そういう方達に対して、「そういう試練も、つながって一緒に乗り越えちゃいましょう」と呼びかけています。そういうコンセプトに共感してくださった方々の集まりですね。
さらに言うと、50代以上がつまらなそうに生きていると若者が絶望するんじゃないかなとも思うんですね。年とるとあんな感じにつまらなくなっちゃうのか、って。だから、我々世代がもっと楽しそうに生きていることが若者の希望に直結すると思っています。そういう意味において、50代以上が楽しそうに生きていること自体がある意味「若い世代への貢献」だとも思っています。
その辺をちゃんとやっているコミュニティがあまりないので、一度トライしたいと思って始めました。
50歳からの30年間を付き合った友達の存在は大きい
ーー生き生きとしている先輩の背中を見ると、私も頑張ろうと思えます。
50代以上はいままでの人間関係が希薄になってしまって、みんなしょぼくれてしまうんですよね。僕は、例えば50歳の人がいれば30年後の80歳までつながりましょうと伝えています。今は元気かもしれないけど、80歳の頃には環境も変わっている。そんな中でこの30年間付き合った友達の存在はすごく役に立つはずです。だから、長く付き合っていきましょうね、というコンセプトです。
そういう風に考えていくと視点が俯瞰的になって長くなります。
そうなるといきなりみんな元気になったりするんですよ。そして「あと30年、仲間がいるなら、新しいことにトライしてみよう」みたいな意欲も生まれる。そういう背中を若者が見ると「年をとるのもいいかもな」って少し生きる希望が生まれる。そういうの、とても大切だと思っています。
ーーコミュニティ活動は現在どのように動いていますか?
Good Eldersの例でわりとびっくりされるのは、ブログの投稿数ですかね。クローズドな400人弱のコミュニティで、1年で2000本くらいの投稿があります。1日に5本以上投稿されていることになります。こんなにブログ投稿が多いコミュニティは見たことがない、とコミュニティのプロの方に言われました。
あと、部活のようなグループもおおよそ120くらいあって、いろいろ動いています。イベントも各人が勝手にいろいろ立ち上げて、とても活発ですね。
さきほども話したようにボクは安易に盛り上げようとはしないんです。同調圧力も極力排除しています。そういうのがいまはうまく行っている感じでしょうか。みなさんが勝手にいい感じの焚き火を作って火をくべてくれています。
幸せのヒントは自分のつながりを見直して、長続きするコミュニティに入ること
ーー最後に、人生100年時代を生きる上で人生を楽しく過ごすためのヒントを教えてください。
さきほど話したように、『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』という本には科学的研究結果としてこう書かれているわけです。健康で幸福な人生の鍵は良い人間関係(つながり)に尽きる、と。
他にも同じような研究はあって、たとえば、タバコを吸わない人よりもお酒を飲まない人よりも、「つながりを持っている人の方が長生きである」みたいな結果も出ています。
だから、これから100年生きるということになるならば、我々はもっとつながりを重視しないといけません。
最近よくウェルビーイングっていいますよね。この言葉はカラダの健康の意味合いで使っている人が多くいますが、WHOの定義によると全部で3つあるんです。
1つはフィジカルウェルビーイング(からだのウェルビーイング)、もう1つはメンタルウェルビーイング(こころのウェルビーイング)、最後がソーシャルウェルビーイング(つながりのウェルビーイング)。この3つが揃わないと健康とは言えない、とWHOは定義づけているわけです。
ここに前出のハーバードなどの研究をかぶせて考えると、その3つの中で「ソーシャルウェルビーイング」が一番大切、ということになります。カラダの健康(フィジカルウェルビーイング)も「つながり」に左右されるわけですから。
それなのに、日本では「ソーシャルウェルビーイング」は軽視されています。
もっともっとみなさんはソーシャルウェルビーイングを考えないといけない。「つながり」こそが健康や幸福の鍵を握っているんです。
ーー最近ご友人限定のバーを始められたのも、ご自身のソーシャルウェルビーイングを高めるためでしょうか?
僕の病気が直接のきっかけではありますが、基本的にはソーシャルウェルビーイングを高めていくことは常に考えています。
今30〜40代の人はあと60年ほど生きちゃうかもしれないわけですよね。家族も先に死ぬかもしれない。時代的に子どももいない人も多いかもしれない。そういうときに、自分の居場所としてのコミュニティを持っているっていうことは、幸福のためにとてもとても重要なことだと思います。
だから、自分の周りのつながりをちゃんと見直して、自分が長くいられるコミュニティを探してそこでつながっていること。これがとても大事です。