30代からの友達づくりのコツはその場で「この後どう?」と誘うこと/明治大学教授・諸富祥彦さんインタビュー

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大人になってから、友達はできましたか?

学生時代と違って仕事や家族との時間が増えた大人にとっては、友達関係は希薄になりがちですよね。

特集「友達いますか?」では、「なんだか友達と疎遠になってさみしい」「そもそも多いほうがいいの?」などの大人の友達関係の悩み・疑問について識者のお話を伺いながら、友達関係について深めています。

特集:友達いますか?

希薄になった友達関係から、場合によっては新しく友達を作りたい!と思うものの、若い時と比べると、そのハードルがなかなか高い。そんな「大人になってからの友達の作り方」について、明治大学・諸富祥彦教授にお話を伺いました。

諸富教授は、臨床をもとにした心理学において「孤独」や「むなしさ」「ひとり時間の向き合い方」を研究テーマにしています。長年の時間をかけて200冊余の著書を出し、「恋愛」「友達」などのコミュニケーションから生まれる「自分らしさ」や「生きる意味」についてひもといてきた教授。

大人になってからの友達づくりは、学生時代の友達づくりとどこが違うのでしょうか。

プロフィール:諸富祥彦(もろとみよしひこ)
1963年福岡県生まれ。1986年筑波大学人間学類卒業、1992年同大学院博士課程修了。英国イーストアングリア大学、米国トランスパーソナル心理学研究所客員研究員、千葉大学教育学部講師、助教授を経て、現在、明治大学文学部教授。教育学博士。日本トランスパーソナル学会会長、日本カウンセリング学会理事、日本産業カウンセリング学会理事、日本生徒指導学会理事。教師を支える会代表、現場教師の作戦参謀。臨床心理士、上級教育カウンセラー、学会認定カウンセラーなどの資格を持つ。著作 単著、編著多数。ホームページはこちらから。

深い友達が2〜3人いないと心が渇いたようにむなしくなる

ーー諸富教授は「孤独」をテーマに研究されていますよね。年代によって、「孤独」の種類や課題は異なりますか?

もちろん異なります。10代・20代の孤独は不登校になりやすいです。そして日本社会の一番の孤独の課題は高齢者で、孤独な高齢者は寿命が縮まりやすいという傾向があります。

一方で30代・40代は社会の中核でバリバリ働いている人が多い年齢層ですよね。こういった人々は、表面的な友達はいるけれど、しっかりと付き合える友達がいないという「孤独」を感じやすいんです。

ーー実際に私の周りでも、仕事仲間はいるけれども「友達は?」と聞かれると困ってしまうという人も多くいます。

心を許せる深い友達がいない、というのが30代・40代の大きな課題だと思います。

孤独には2種類あります。1つは誰かと一緒にいたいという単純な寂しさ。もう1つは深く交流できない寂しさ。

子どもの頃は、誰かと一緒にいれば満たされることも多いですが、大人になってからは深い話ができる友達がいないと孤独を感じやすい。

そして友達にも2種類あります。1つは気楽な話をするだけの浅い友達。2つ目は人生のことを話し合える深い友達。

学生の頃は浅い友達だけでも満足なんです。しかし、大人になると深い友達が2〜3人程いないと心が渇いたようにむなしくなってくるんです。また、孤独の中にはいつも誰かと一緒に過ごしているけれども、寂しさを感じてしまう孤独もあります。そんな孤独を癒せるのは、深い友達のほうです。

自分が今「寂しいな」と孤独を感じたときには、浅い友達と深い友達の2種類の友達に分けて考えて、どちらが不足しているのかを考えてみるとよいでしょう。

ーーたしかに、仕事以外の深い話をする友達や機会が年々減っているように感じます…。しかし、いまさら深い話をするのも恥ずかしさもあってちょっと難しいです。

そうですよね。深い話をするということは「そんな話はいやだ」だったり「その考え方は違う」と拒絶される可能性もあります。しかし、そこで少しだけ勇気を出してみるんです。自分から心をひらいて、一歩だけ歩み寄ってみる。

もちろん、全員に心をひらく必要はないですよ。「この人とは深く付き合えそうだな」と感じた人に歩みよってみるんです。

ーーなんだか恋愛とも似ていますね。

恋愛の多くも、まずは友達になった上で発展するものです。男女にかかわらず深い友達を作ることができれば、恋愛にもつながりやすいですよね。

友達づくりのポイントは大人のマナーを守りすぎないこと

ーーそれでは、30代・40代で新しい深い友達を作るためには具体的にどんなアクションをとればいいのでしょうか。

まず、大人のマナーを守りすぎないことが大事です。日本の大人はマナーを守りすぎていて、深い友達をつくる機会を失っていると思います。「深入りはしない」「仕事に関係ない話はしない」などの社会人のマナーの枠から少しだけはみ出してみましょう。

「変に思われたらどうしよう」だとか「仕事で出会ったから失礼かな」だとかの不安な気持ちもありますが、勇気を出して声をかけてみるんです。

みんなで食事をしていて仲良くなれそうかな?と思った人には、2軒目に誘ってみる。仕事をしていて気が合うなと思ったら、食事に行きませんか?と誘ってみる。そのときのポイントは、「今度また〜」と言わないこと。「このあとどうですか?」とすぐに誘うことです。「今度」は来ませんから。

ーーたしかに「今度また〜」って気軽に言ってしまいますが、なかなか実現しないですし、後から誘うほうがハードルが高くなりますよね。声をかける人はどんなふうに見極めればよいですか?

それはもう恋愛と一緒で、フィーリングですよね。片思いが強すぎるともちろんダメです。気が合うな、仲良くなれそうだなという自分の感覚を見極めつつ、相手のフィーリングもきちんとみましょう。

また、30代・40代の友達づくりでは、欲張りすぎないことも大事です。30代・40代から新しい親しい友達が2人できれば十分です。

ーー「今から2人」と思うと少しできそうな気持ちになります。

私自身も、親友ができたのは30代半ばから40代にかけて出会った2人です。ですので、人数は少なくてもいいんです。その代わり、深い話ができる友達をつくること。欲張って、中高生時代のようにいつも一緒にいて満たされるような友達関係を求めないこと。

その関係性は「不安を解消する人間関係」です。それが大人になっても続いているのは、少し幼いかもしれません。

しばらく会わなくても、会えば深い話ができる友達。これが、大人の友達です。

しかも、結婚と違って大人の友達には離婚と同様のものがないですよね。だから、友達は一生の関係性になり得るんです。そう思って、欲張りすぎずにフィーリングを確かめてから少しの勇気を出すとよいでしょう。

「とりあえずYES」のスタンスで偶然をポジティブに捉える

諸富教授自ら「YES」のポーズをしてくださった

ーーありがとうございます。それでは、これまで仕事や家庭に一生懸命に取り組んでいて息切れしてしまった人などに向けて「生きる意味」を見つけるためのアドバイスはありますか?

「生きる意味」とは、人生の物語が紡がれることです。仕事や家庭で「このために生まれて来た」ということに出会えると「生きる意味」を感じられます。仕事が生きる意味につながらないと転職を考えますが、仕事を含めた生きる意味について語れる友達が必要です。

先ほどお話した方法で友達づくりにチャレンジしてみる。もしくは、ちょっと勇気がでないという人は、私が主催している心理学のワークショップもあるのでぜひ来てみてください。

ーー最後に、そもそも新しい人に出会う機会も年々減っていくのですが、新たな場所に積極的に出向いていったほうがいいのでしょうか?

心理学ではPlanned Happenstance(計画された偶然性)という理論があります。これは、「偶然の出会いや出来事を大切にしている人が幸せ」という理論です。

つまり、誘いにはとりあえずYESと言って参加してみたり、ちょっと気になるところには足を運んでみたりする。そんなふうに偶然の出会いや出来事を前向きに捉えてアクションをとっている人は幸せになりやすいということです。

いい偶然を計画的にたくさん作っていくことをおすすめします。そのためには、ビビッときた誘いにはYESと答える、気になるイベントには足を運ぶ、気になっていた趣味を始めるなども大事です。

そこには新たな出会いが待ち受けているので、気になった人に声をかけてみると友達ができやすいですよ。