「友達は多い方がいい」。世の中にはどこかそんな風潮があるけれど、就職・結婚・出産・子育てなどのターニングポイントに差し掛かると、それまで仲が良かった人と忙しくて疎遠になったり、価値観の違いで袂を分かったり、大人になってから新しく友達を作るといっても、なかなかその機会がない上に億劫でどんどん友達の数は減っていく。
これってマズイ? そんな疑問に答えてくれるのが、大妻女子大学人間関係学部の准教授・本田周二さんだ。成人期における友人関係の研究に取り組む本田さんに、友達の必要性や大人になってから友達を作るためのステップについて伺った。
プロフィール:本田周二 (ほんだ しゅうじ)
大妻女子大学人間関係学部人間関係学科社会・臨床心理学専攻 准教授。2009年東洋大学大学院社会学研究科社会心理学専攻博士後期課程単位取得満期退学、博士(社会心理学)、公認心理師、専門社会調査士。主な著書に『公認心理師必携テキスト 改訂第2版』(学研メディカル秀潤社, 2020年)、『メディカルスタッフのための基礎からわかる人間関係論』(南山堂, 2021年)、監訳書に『心理学大図鑑 THE STORY』(ニュートンプレス, 2020年)などがある。
社会的孤立の要因は、現代の“友達の作りづらさ”にあり
――本田さんがこれまで、どのような研究をされてきたのかを教えてください。
本田周二さん(以下、本田):大学院生の頃から社会心理学を専門にしてきたんですが、中でも私は友人関係の研究に重きをおいて取り組んできました。最初の頃は20歳前後の青年期に特化した友人関係の研究をしていて、尚且つ、その関係性がなぜ壊れてしまうのかという、どちらかといえばネガティブな側面に焦点を当てていたんですね。ただ、この5〜6年は対象を青年期から成人期に移行した上で、友達という存在のポジティブな側面について研究を重ねています。
――そもそも、友人関係を研究テーマにしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
本田:友人関係って昔からずっと曖昧だなと思ってたんです。親子関係は多くの場合、血の繋がりで証明できる。恋人や夫婦関係もほとんどが、「付き合いましょう」「別れましょう」といった具合に、言葉でもって始まりと終わりが明確化される。
一方で、友人関係は何かで証明できるわけでもなければ、始まりも終わりも曖昧。なのに、私たちは友達というものを重要なものだと思っているし、「嫌だけど付き合わなきゃ」みたいな、人をある種縛るものとしても機能しているのが不思議で。そこが研究の出発点な気がしますね。
――たしかに子どもの頃だと、友達になる時に「友達になろう」みたいな言葉が存在するけど、大人になるとほとんどないですよね。
本田:小さい子だと「絶交」という言葉もよく使いますよね。だけど、次の日には仲直りして、あっという間に友達に戻っていたりする。大人になるとそうした言葉は存在せず、気づくと友達になっていて、気づいたら会わなくなった、みたいなことがほとんどだと思います。
――本田さんのような友人関係の研究というのは昔からされてきたものなのですか?
本田:友人関係自体は昔から心理学のみならず、幅広い分野において研究対象になってはいます。ただ、20代後半〜40歳くらいの成人期を対象とした友人関係の研究が非常に少なくてですね。それもあって、自分はそこに焦点を当ててみようと思ったんです。
60代以降のいわゆる老年期における“社会的孤立”が心理学において大きな一つのテーマになっていて、その分析と解決が急がれていますが、私はその前の段階である成人期になぜ人は孤立してしまうのか、また友人関係は孤立を避けるためのものとして有効に働くのかという研究を行なっています。
――現時点で明らかになっていることとしては、どういったことが老年期以降の孤立に繋がるのでしょうか。
本田:やっぱり大人になってから友達をつくるのが難しいということが理由の一つだと思います。私が取ったデータだと、だいたい30歳を境に自分が形成している友人関係の中で学生時代以降に作った友人の割合が高まっていくんですね。要は「学生の頃から付き合っている友人とはちょっとずつ疎遠になり、それ以降に作った友人との付き合いが増えていく」ということなんです。裏返せば、それは「学生時代以降に友人を作れなければ、どんどん孤立していく」ということでもあります。
――たしかに体感としても学生時代の友人とは疎遠になっていっている気がするんですが、それは何故なのでしょう。
本田:どうしても自分自身に付属する肩書きや背景が増えるからだと思います。子供の頃であれば、友達と大体同じ時間の流れの中で過ごしているからゼロベースで付き合うことができるんですが、大人になったら学歴、勤めている会社、配偶者や子供の有無など、色んなところで違いが出てきますよね。そうなってくると、どうしても自分と相手を比較してしまって、その差を超えて付き合うことが難しくなってくるんじゃないでしょうか。
――子供の頃は友人のタイプにバラエティがあるけど、大人になると総合的に自分と近しいタイプの友人が増えてくるのは、その方が「この人は自分より年収が高い」「なんで自分は結婚できないんだろう」という風に比べることが少なくて済むから楽なのかもしれないですね。
本田:それは大いにあると思います。友人関係に限らず、対人関係の形成には類似性というものがプラスに働くので。「この人と自分は似てるな」と思う部分が多ければ多いほど、結びつきは強くなりやすいですね。対して、「この人と自分は合わないな」と思う部分が多ければ多いほど、結びつきは弱くなっていく。これまでは居心地良かった関係がストレスに思える原因は多くの場合そこにあるような気がします。
――先ほど「大人になってから友達をつくるのが難しい」ということが社会的孤立の一要因となっているとおっしゃっていましたが、社会的孤立が現代社会の課題であることを鑑みると、昔よりも今の方が友達をつくるのが難しい状況になっているのでしょうか。
本田:はい。早稲田大学で社会学者の石田光規先生という方が教鞭をとられているんですが、先生は1980年代から2010年代の約30年間に発行された新聞記事の中から、友人関係について記述の集め、そのあり方がいかに変化してきたかを研究されてきたんです。その結果、分かったことの一つとして友人関係の前景化というものがあり、要するにこれまでは血縁や地縁に基づく関係性が自然とできていた。だけど、そうした結びつきが弱まり、現代では付き合いたい相手は自分で選べるようになりました。
選択できると言えば聞こえはいいですが、要は自発的に誰かと親密な関係を作る必要があるし、その中で自分も選ばれなければならないという、とても厳しい状況でもあるということです。
――これまでは何もしなくたって自然とできていた友人関係を、今は努力で得ていかなければならない状況ってことですね。それはなかなかに大変なことのように思います。
本田:少なくとも、すべての人が対応できるものではないなと思いますね。あとは未婚化の影響も大きく、恋人が欲しいと思わない若者も増えてきている中で、これまでは友人以外からも得られていた関係性のメリットが得られなくなっているんです。配偶者や恋人よりも友達という存在に拠り所を求める人は増えているにもかかわらず、友達をつくることが難しくなっている。それが現在の状況と言えそうです。
友達を作るなら、まずは簡単な自己開示から
――本田さんが昨年発表された「成人期における友人関係・結婚関係の有無が当人のアイデンティティ、人生の意味、主観的幸福感に及ぼす影響」という論文では、友人という存在のメリットが示されていましたが、改めてどういう研究かお聞かせください。
本田:今回の研究では、20代~40代の男女450名(男性225名、女性225名)を調査対象としました。
具体的な方法としては、まず性別・年齢・居住地域・結婚の有無・子どもの有無・職業といった基本的な情報に加え、現在の友人の有無と友人の数、その満足度(非常に不満である(1)~非常に満足である(7)の7段階評価)の3つの質問についてアンケートを取ります。その上で、「アイデンティティの確立度合い」や「主観的幸福感」、「人生の意義についての理解度」、「人生の意義を理解することに向けた努力の程度」が分かる質問項目に答えていただくという方法です。
今回はそれらの程度が、友人がおらず未婚の人は、友人がいる人や既婚の人と比べて低いという仮説のもとで検証を行いました。
――その中で気になるのが「人生の意義を理解することに向けた努力の程度」ですが、その程度が高いとは具体的にどういった状態なのでしょうか。
本田:自分の人生に何かすでに意味を見い出すことができている状態はもちろん、その前の段階、要は「自分の人生にどんな意味があるのだろうか」と考えること自体がウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態にあること)に繋がると言われているんですね。その探究心が強ければ強いほど、「人生の意義の理解の程度が高い」と言えます。
――結果として、これらの程度が友人や配偶者の有無で変わってきたのでしょうか。
本田:まずは、人生の意味探求得点、人生の意味保有得点、主観的幸福感得点、アイデンティティの基礎得点、アイデンティティの確立得点がすべて友人がいない人よりもいる人の方が高いという結果になりました。また、配偶者がいる人はいない人よりも主観的幸福感とアイデンティティの基礎得点が高いという結果になりました。つまり、成人期における友人関係がその人に与える影響は大きいと言えるでしょう。
――他にも、興味深い結果はありましたか?
本田:興味深いというよりも、安心したのは友人の数はいずれの度合いにも影響を及ぼしていないという結果です。やはりSNSのフォロワー数もそうですが、やはり世の中にはまだまだ友達や知り合いは多ければ多いほどいいという風潮があります。だから、「友人の数が多くなればなるほど、主観的幸福感が高い」というような、わかりやすい結果がどこかで出ると思っていたら、そんなことはなかった。たくさん友達を作らなきゃいけないと思ったら、それだけで億劫になる人も多いと思うので、「大事なのは友人が1人でもいるかいないかであって数じゃない。この人だって思う人が1人でもいれば、日々の生活は安心して送れる」ってことがデータからは言えそうなので、良かったなと思います。
――その「この人だ」と思える1人を作るためのステップとして何が考えられるでしょうか。
本田:先ほども言った通り、基本的に誰かと関係性を築く上では“類似性”や“近似性”がとても大事になってきます。そのためには、自分がどういう人間なのかを開示する必要がありますが、これも冒頭の方で述べたようにスタートの段階では肩書きみたいなものは伏せておいた方が自分と相手との間で差が生まれず関係性が築きやすいと思います。
例えば「WBCが優勝しましたけど、観ましたか?」といったように、何か一つの出来事を共有できたら、そこで少し距離が縮まりますよね。だから、同じコンテンツのファン同士で繋がりが生まれやすいのではないでしょうか。
――では、なかなか友達を作る機会がないという人は、何か趣味を持つことが友達を作ることに繋がるかもしれませんね。
本田:それも友達を作るために有効な一つの方法になると思います。まずは自分が「何を好きか」という小さな自己開示から。そこから少しずつお互いのことを打ち明けて、関係性を深めていけばいいのかなと思います。
その際に大事なのは自分のことばかり話すのではなく、相手の話をしっかりと聞くこと。人には返報性の原理という、相手にしてもらったら、同程度のものを返したいと感じる心理が働きます。これは社会的スキルの一つですが、関係性を深めるためはお互いを理解することが大事。だけど、理解してもらおうとして自分のことばかり伝えていると相手の満足度も下がってしまうので、自分が話を聞いてもらった分、相手の話も聞くようにしましょう。
編集・ライティング/苫とり子