あなたは人間関係においてどんな「キャラ」ですか?
いじられキャラ、天然キャラ、姉御キャラなどの他に、最近では「陰キャ・陽キャ」という言葉もあります。自身のキャラクターの属性を陰陽のどちらかで自称することが多いようです。
この2つの属性には大きな壁があり、相入れないタイプのように思えます。たとえば「陰キャ」の人が何かのきっかけで「陽キャ」になることはあるのでしょうか?
心理学の分野でパーソナリティ・キャラクターを研究テーマのひとつにしている筑波大学人間系助教の千島雄太さんに話を聞きました。
プロフィール:千島雄太(ちしまゆうた)
筑波大学人間系助教。専門領域は、教育心理学、発達心理学。主な研究テーマは、時間的自己やアイデンティティ形成など。近著には『非認知能力』(北大路書房)、『発達とは? 自己と他者/時間と空間から問う生涯発達心理学』(福村出版)など。
社交的な行動を繰り返していけば「陽キャ」になれるかもしれない
ーー「キャラ」の中には大きく「陰キャ」「陽キャ」という2グループがあるように感じます。どのような年齢のときに出現しはじめるのでしょうか?
「陰キャ」「陽キャ」はとても最近の言葉ですよね。私は最近調査をとっていないので、割合まではわかりませんが、今では小学生や中学生でも一般的に使われる言葉だと思います。
また、その分類は人の性格を二分していて、時にはヒエラルキーにもなってしまうので極端だなと思ってしまいます。しかし、大きく明るいグループや暗いグループというのは以前からあったものだと思います。
ーーいわゆる「デビュー」のような、2つの「キャラ」間の移行がうまくいく人もいますよね?
環境が変わるタイミングでは人間関係がそもそも変わり、他者からの扱われ方もリセットされるので、いわゆる「デビュー」という新しい人間関係で自分も変わるという人もいると思います。
また、環境は変わらなくとも自分自身でどうにかして「陽キャ」っぽい性格になりたいと思う人もいると思います。それが実際に可能かどうかを実験した研究があるんです。
実験手法としては、明るい性格になりたい人たちを集めて、毎日1つ行動をしてみてもらう。まずはスモールステップで「友達にLINEしてみましょう」などから始まり、次は「コンビニの店員さんに挨拶をしましょう」など。そうしてその人自身ができることからステップを踏んでいき、数週間継続するという実験でした。
その結果では、2〜3カ月後には「自分は明るい性格になった」と答える人が多く、周囲からも「明るくなった」と思われるということがわかったんです。
だから、「陽キャ」のように社交的になりたいと思う人も、頑張って自分の行動を変化させていけばキャラも変化させることができるかもしれないということですよね。
ーー希望的な研究結果ですね!
そうですよね。その研究の中で私が興味深かったのは、毎日行動をするうちに自分の性格の認識も変化するということなんです。最初は、自分は暗い性格なのに他の人に電話しなきゃ、食事に誘わなきゃなんてつらいな、自分らしい行動じゃないのになと思うんです。しかし、続けることで演技ではなく、私の性格が原因で今の行動をしている、と思うようになるんです。
そのプロセスが興味深いですよね。心理学の調査で「本来感」という指標を測るために「あなたは今日は本来の自分でいることができましたか?」などの質問をします。この調査でいうと、店員さんへの挨拶が偽りなくできましたか?というような内容になるのですが、行動を続けることによって本来感がどんどんあがっていくんです。
つまり、「本来の私である」という感覚そのものが、変わりやすいものだということなんです。「自分らしくいましょう」とよく言われますが、「自分らしさ」というものは意外と変わりやすいんです。
仕事と性格がマッチしているほど健康的かつ給料も少し高い傾向に
ーー仕事にも近い部分があると感じました。例えば1年前まで学生だった人が営業職で働くにつれて、だんだん営業マンらしくなっていくなど。
そういうこともあると思いますね。人と接する仕事をしていたら、元々の性格がどうであれ慣れてきて自然になっていくということかなと思います。
ーー大人になっても「キャラ」や役割を演じないといけないことは多々あると思うのですが、どんなふうに「キャラ」や役割を認識して付き合っていけばよいと思いますか?
自分の性格と全くマッチしていない仕事を続けていくとメンタルヘルスにも悪影響が出てくることは言われますが、自分の性格と大きな偽りがなければ問題はないのかなと思います。
業種・職種と性格がどうマッチするかという研究もあるんです。例えば、営業職の人は明るい人が多い、事務職は几帳面な人が多いなどの傾向があります。その上で、「自分自身で評定した性格」と、「他者が評定したその仕事に向いている性格」のマッチングを見ています。その研究からは仕事と性格がマッチしているほうが健康的にもよく、給料も少しですが高いという結果が得られています。
自分を他人のようにいたわることが、メンタルヘルスにいい影響を与える
ーー千島さんは、「未来の自分への手紙」という手法でメンタルヘルスについても研究されています。これはどのような研究なのでしょうか?
今の積み重ねが5年後10年後を築くと思うのですが、日常生活では特に意識することはないですよね。何か大きな夢や目標があったときに、未来と今が繋がっている感覚が得られるといいなと思い、手紙という手法で現在取り組んでいます。
これは、まず1年後の自分への手紙を書きます。調査した際はコロナ禍がはじまったときだったので「コロナはおさまっていますか?夢は達成できましたか?」などの内容が多くありました。さらに、その手紙を受け取ったと仮定し、未来の自分になりきって「目標としていた仕事に就けましたよ」などの返信を書いてもらいます。1人2役をおこなうんです。
結果としては、「未来の自分に手紙を書くこと」「未来の自分になりきって返信を書くこと」どちらもメンタルヘルスにいい影響があったということがわかりました。
ーー自然とポジティブな内容になるのがよいのでしょうか?
そもそも、未来を想像したときにネガティブなことばかりを書く人は少ないですよね。実際に1年後にその手紙を見返してもらうこともおこなったのですが、みなさん感動されていました。思い描いたような未来でなかったり、おかしな手紙の内容のこともあるけれど、すごく励まされるそうです。
ーー働く世代がメンタルヘルスを保つ上で大切なことはなんだと思いますか?
今までのお話でいうと、自分自身を否定せずに自分に対して思いやりをもつことだと思います。他の人に対して思いやりをもつように、自分も労わってあげることがストレスの低減やメンタルヘルスの保持につながるのだと思います。
セルフパッションともいうのですが、手紙をかくことも未来の自分に対して希望を託すという意味で自分を労わっていることになるはずなんです。過去の自分から励まされる感覚や、とても身近な他人に励まされているような感覚になる人もいて、それが自分をいたわるツールになるのかなとも思います。
*前編はこちらから。